白帝ニュース 2026年夏号

「楽しさは、自分から探しに行くもの」診療部長 金鳳虎

今年も連日のように厳しさを増す酷暑の季節がやってきました。精神科医として長年アルコール依存症の治療に携わっていると、治療を始めてお酒のない⽣活をスタートさせる患者さんから、共通する「あるお悩み」をよく伺います。

それは、「お酒をやめたのはいいけれど、趣味もなく、やることがない」というお声です。今まで生活の中心にあったお酒を⼿放した後に広がる膨⼤な空⽩の時間に、戸惑ってしまうのです。同じような問題は定年退職などを機に訪れることも多く、仕事や役割から離れて社会との接点が急激に減り、地域の中で孤立してしまう方が少なくありません。ぽっかりと空いた時間と孤立感——そこにお酒が忍び込んでしまうケースは決して珍しくありません。また、人は社会から途絶えて孤立してしまうと、刺激の減少によって脳の機能が衰えやすくなることも知られています。だからこそ、心身の健康を保ち、毎日を楽しく過ごすためには、自分から「楽しいこと」を探しに行く姿勢が大切になります。

趣味が見つからない時は、自分ひとりの楽しさを探すだけでなく、「誰かや地域のために、何か役立つことをやってみる」のも素晴らしいきっかけになります。ボランティアや地域の行事に顔を出し、誰かに喜ばれる経験をすることが、巡り巡って自分自身の生きがいや活力へと繋がっていくのです。

しかし、いざ新しい一歩を踏み出そうとする時、多くの方が「上手くなじめなかったらどうしよう」「失敗したら恥ずかしい」という恐怖心から足がすくんでしまいます。

そんな時、私はユニクロの柳井正会長の「一勝九敗」という言葉を思い出してほしいと思います。柳井氏は「10回挑戦して勝つのは1回だけ」と語っています。そう考えれば、私たちが新しい取り組みや地域での繋がりに挑戦する時も、一発で上手くやる必要など全くありません。「合わなければ次を試せばいい」というくらいの軽い気持ちで十分なのです。

「楽しさ」や「やりがい」は、じっと待っていても向こうからはやってきません。「一勝九敗」の精神で、失敗を恐れずに小さな一歩を重ねていくうちに、10回に1回、心から「やってよかった」と思える瞬間に出会えれば、それで大成功です。この厳しい酷暑の折、体調管理にはくれぐれも気を配りつつ、「やることがない」と諦めてしまう前に、まずはほんの少しだけ外の世界へ目を向けてみませんか。皆様が⾃分らしい豊かな⽇常を育んでいけるよう、私どもも精⼀杯お⼿伝いしてまいります。

金 診療部長
金 診療部長

「テイキングアクション」~自分らしく歩むための学びの場~作業療法⼠室室長 堀 義治

当院では、本年3月より「Taking Action」(以下テイキングアクション)の提供を開始しました。これは、「より健康的な人生を築くための歩みを始めたい」と願う方のための学びのプログラムです。ファシリテーターの説明や体験談をもとに、ワークブックを使って自分自身を振り返り、参加者同士で経験や思いを分かち合いながら、自分に合った健康づくりや自分らしい人生の歩み方を見つけていきます。こころの不調からの回復を目指す方はもちろん、人生により良い変化を求めるすべての方に、お勧めのプログラムです。

正式名称は「Taking Action for Whole Health & Well-being」で、日本語では「総合的な健康とウェルビーイングのための⾏動を起こす」を意味します。このプログラムは、⽶国のピア主導の非営利団体「コープランドセンター」が開発したものです。⽶国薬物乱⽤・精神保健サービス局( SAMHSA : サムサ) が作成した「Taking Action」を基盤に、こころの病などの困難を乗り越えてきた多く
の当事者の経験や知恵が取り入れられています。2024年に誕⽣したばかりの新しいプログラムであり、⽇本国内で導入している医療機関はまだ多くありません。

当院では、米国で研修を修了した2名のピアスタッフ(自身の病からのリカバリー経験を活かして働くスタッフ)がファシリテーターを務めています。プログラムはカリキュラムに沿って進められ、参加者一人ひとりが自分のペースを大切にしながら、対話を通じて学びを深めていきます。この学びの場では、専門家が「正解」を教えることを目的としていません。「一人ひとりが自分自身についての専門家である」という考え方を軸とし、他人が決めた基準ではなく、あなたの考えやアイデアでウェルビーイングを高められるようサポートします。一人では気づけなかった新たな発見や、仲間との対話から生まれる実用的な学びも、テイキングアクションの大きな魅力です。見学も随時受け付けていま
す。まずは気軽な気持ちで参加してみませんか?


心理室より外来プログラムについて

外来プログラムの集団心理認知行動療法(不安とうつの付き合い方教室)・マインドフルネスの参加者募集しております。興味のある方はお気軽に主治医までご相談ください。

白帝ニュース


バックナンバー